撹拌脱泡機のカタログを並べて比較しようとしたとき、「到達真空度 1.3kPa」「−0.1MPa」「真空度99%」といった具合に表記がそろわず、どれが自社に合う機種なのか判断しづらいと感じたことはないでしょうか。真空度は、撹拌脱泡機の性能を左右する重要なスペックでありながら、単位や基準の取り方が複数あるため誤解が生じやすい項目でもあります。本記事では、真空度の単位の読み方から、自社の材料に必要な真空度を判断する考え方、そして真空度を上げすぎたときに起こりうるリスクまでを整理します。
真空度とは、容器内の圧力が大気圧に比べてどれだけ低くなっているかを示す指標です。JIS Z 8126-1:2021では、真空を「通常の大気圧より低い圧力(分子密度)の気体で満たされた空間の状態」と定義しています。つまり真空とは「空気がまったくない状態」を指すのではなく、大気圧より低い圧力の状態全般を指す言葉です。
圧力の単位にはPa(パスカル)が用いられ、標準的な大気圧は101,325Pa(約101.3kPa)とされています。ここから空気を抜いていくほど数値は小さくなるため、真空度は「数値が小さいほど高真空」という関係になります。この点は直感と逆になりやすく、カタログを読み違える原因のひとつです。
真空度の表記に使われる単位は複数あり、装置の製造年代や輸入元によって異なります。おおよその関係は以下のとおりです。
現在の計量法ではPaが基本の単位とされており、TorrやmmHgは限られた分野でのみ使用されています。ただし古い装置の圧力計や海外製カタログではTorr、mbarといった表記が残っていることもあるため、他社製品と横並びで比較する際はPaまたはkPaに換算してから並べると誤解を避けやすくなります。
単位以上に混乱を招きやすいのが、圧力を測る「基準」の違いです。圧力の表し方には、絶対真空を0とする絶対圧と、大気圧を0とするゲージ圧の2種類があります。真空機器の分野では絶対圧が使われることが多い一方、一般的な圧力計(連成計)はゲージ圧で目盛られているため、同じ状態を指しているのにまったく違う数値に見えることがあります。
両者はおおむね「絶対圧[kPa]≒ 101.3 − ゲージ圧の絶対値[kPa]」という式で換算できます。たとえばゲージ圧で−0.1MPa(=−100kPa)と表示されている状態は、101.3−100=1.3kPaとなり、絶対圧で1.3kPa程度の真空を指していることになります。表記はまったく異なりますが、示している状態はほぼ同じです。
カタログを比較する際は、数値の大小を見る前に「absまたはaが付いた絶対圧か、Gが付いたゲージ圧か」を確認しておくと、比較の土俵をそろえられます。表記が省略されている場合は、メーカーに基準を確認しておくと安心です。
JIS Z 8126-1:2021では、圧力範囲に応じて真空の領域が次のように区分されています。
これよりさらに低い領域を極高真空と呼ぶこともありますが、これはJIS本体で規定された区分ではなく、学術用語として使われているものです。なお、この区分は2021年の改正版に基づくものであり、それ以前の版を参照した資料とは記述が異なる場合があります。
ここで注目したいのが、撹拌脱泡機のカタログに記載されている真空度の多くがkPaのオーダーだという点です。1kPaは1,000Paにあたるため、JISの区分でいえば低真空の範囲に収まります。
つまり撹拌脱泡機で必要とされるのは、半導体の成膜装置などで求められる高真空・超高真空とは大きく異なる領域だといえます。「真空度は高いほど高性能」という前提で機種を絞り込むと、自社の用途に対して過剰なスペックを選んでしまう可能性があります。まずは自社の材料がどの領域を必要とするのかを見極めることが、機種選定の出発点になります。
装置そのものの仕組みや用途については、下記のページで解説しています。
真空撹拌機とは?
仕組みや選び方など導入前に知るべきポイントを解説
減圧によって気泡が抜けやすくなるのは、周囲の圧力が下がることで気泡が膨張し、浮力が大きくなって液面へ浮上しやすくなるためです。気体の体積は圧力に反比例するという考え方に基づけば、大気圧101.3kPaの状態にある気泡は、絶対圧10kPaまで減圧すると体積がおよそ10倍、絶対圧1.3kPa(ゲージ圧−0.1MPa相当)まで減圧するとおよそ78倍にまで膨らむ計算になります。
膨らんだ気泡は浮上して液面で破裂するため、粘度が高く自然には抜けない材料でも脱泡が進みやすくなります。ただしこれはあくまで理想的な条件下での計算であり、実際には材料の粘度や表面張力、処理時間によって結果は変わります。目安として捉えたうえで、実際の処理条件はテストで確認するのが確実です。
必要な真空度を考えるうえで欠かせないのが、材料に含まれる水分や溶剤の飽和蒸気圧です。飽和蒸気圧とは、その温度において液体が沸騰し始める圧力を指します。水の場合、20℃で約2.34kPa、30℃で約4.25kPa、50℃で約12.4kPaとされています。
これは、20℃の水を含む材料を2.34kPaより低い圧力まで減圧すると、水分が沸き始めることを意味します。同様に、材料の温度が高いほど、より浅い真空の段階で沸騰が始まります。溶剤系の材料では水よりも蒸気圧が高いものも多く、さらに浅い真空で揮発が始まる場合があります。
つまり、「どこまで真空度を上げてよいか」の上限は装置側ではなく材料側で決まるということです。自社の材料に含まれる成分と処理時の温度を整理しておくと、必要な真空度の見当をつけやすくなります。
同じ真空度でも、材料の粘度によって気泡の抜けやすさは大きく変わります。粘度が低い材料であれば比較的浅い真空でも気泡は浮上しますが、ペースト状の高粘度材料や、目に見えないほど微細な気泡を除去したい場合には、より深い真空と長い処理時間が必要になる傾向があります。
粘度が処理に与える影響については、下記のページも参考にしてください。
見落とされやすいのが、目標の真空度に到達するまでの排気時間です。チャンバーや容器の容積が大きいほど、また目標とする真空度が深いほど、到達までに時間がかかります。量産ラインでは、この排気時間がそのままタクトタイムに響くため、真空度の深さと生産性はトレードオフの関係になりがちです。
容量の大きい機種を検討している場合は、下記のページもあわせてご確認ください。
材料の飽和蒸気圧を下回る圧力まで急激に減圧すると、材料が一気に沸騰する「突沸」が起こることがあります。突沸が発生すると材料が容器から噴きこぼれ、装置内部を汚染したり、材料をロスしたりする原因になります。
対策としては、真空度を段階的に下げていく運用や、容器内に十分なヘッドスペースを確保しておくといった工夫が挙げられます。装置側でも減圧の速度や到達真空度を段階的に設定・制御できる機種があるため、突沸しやすい材料を扱う場合は制御機能の有無を確認しておくとよいでしょう。
もうひとつ注意したいのが、材料に含まれる溶剤や希釈剤、可塑剤といった低沸点成分が揮発してしまうケースです。処理中に一部の成分だけが飛んでしまうと、配合比が設計値からずれ、粘度の上昇や硬化不良につながることがあります。
この場合、真空度だけでなく処理時間の管理も重要になります。「深く長く引けば品質が上がる」とは限らないため、材料ごとに適切な条件を見つけることが求められます。
カタログに記載されている到達真空度は、材料を入れていない状態で測定した値である場合があります。実際には材料から水分や溶剤が蒸発するため、運転中の到達真空度はカタログ値より浅くなることが少なくありません。
自社の材料でどこまで真空度が出るかは、デモ機の貸出やテスト依頼で確認するのが確実です。実験センターを設けているメーカーや、デモ機を用意しているメーカーもあります。
真空度は装置の気密性に支えられているため、Oリングやガスケットといったシール部品が劣化すると、カタログどおりの真空度が出なくなることがあります。導入時のスペックだけでなく、シール部品の交換のしやすさや点検のしやすさも、長く安定して使ううえでは重要な比較軸になります。
撹拌脱泡機の真空度は、数値が小さいほど高真空を意味し、絶対圧とゲージ圧という2つの基準があるため、比較の際はまず単位と基準をそろえることが出発点になります。そのうえで、自社の材料に含まれる水分や溶剤の飽和蒸気圧、除去したい気泡の大きさ、生産計画上許容できる処理時間という3つの観点から必要な真空度を検討していくと、判断の軸が定まりやすくなります。
真空度は高ければ高いほどよいというものではなく、深すぎれば突沸や組成変化といった別の問題を招くこともあります。自社の材料と生産条件に合った領域を見極めたうえで、各メーカーの対応方式や制御機能を比較検討することから始めてみてはいかがでしょうか。なお、実際の運転条件や適切な真空度の設定については、扱う材料によって大きく異なるため、最終的な判断はメーカーや専門家にご確認ください。

独自の4カップ仕様により、最大80Lの大量処理が可能。
防爆仕様のため大量の材料を混ぜても安心
シリカ、高粘度樹脂、ワニス、セラミック増粘剤、オイル、UV硬化性樹脂など

1カップ300mlから7000mlまでの間で、中容量のラインナップが最多。
撹拌による温度上昇を抑制することができる
接着剤、フィラー、導電性ペースト顔料、酸化チタンなど

研究用コンパクト機のなかでも、100mlの小型モデルあり。
新規材料でのレシピ提案のアフターサービスあり
シール材、グリス、ガラスペースト、シリコーン樹脂、PDMSなど
2021年11月2日時点で、Google検索で「撹拌脱泡機」と検索し表示されたメーカー公式サイト19社の中から、「カスタマイズ可能」「レンタル可能」「デモ利用可能」の記載があった3社を表示しています。それぞれのメーカーが製造している機械のラインナップの特徴を基に、利用シーンをお勧めしています。
【選出基準】
多量・大容量の処理向き…一度に合計40L以上の処理を行える機械を製造しているメーカーを選出。
小~中容量の処理向き…300mlから1Lの容量で処理可能な機械を多種製造しているメーカーを選出。
小容量での開発処理向き…100mlの容量で処理できる機械を多種製造しているメーカーを選出。