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撹拌脱泡機とアディティブマニュファクチャリング

アディティブマニュファクチャリング(AM)とは

アディティブマニュファクチャリング(Additive Manufacturing、一般に「3Dプリンティング」とほぼ同じ意味です)は、材料を少しずつ付加しながら積層して立体物を作り上げる製造技術の総称です。コンピュータ上の3Dデータから部品を逐次造形するこの方法は、従来の切削や鋳造といった工法では困難だった複雑形状の実現を可能にし、国内外で活発に研究開発が進められています。アディティブマニュファクチャリング技術には樹脂を光で硬化させる光造形(SLA)やインクジェットのように樹脂液滴を吐出するマテリアルジェッティング、熱溶解積層(FDM)、粉末焼結など多様な方式がありますが、いずれも造形材料の品質が出来上がる部品の品質を大きく左右します。

特に光造形やインクジェット系の方式では、使用する樹脂が造形物そのものになります。品質を高めるためには、樹脂材料は完全に均質で気泡を含まない状態であることが重要です。樹脂中にわずかでも空気のボイド(気泡)が含まれていると、それがそのまま硬化後の部品内部の欠陥や構造的弱点となってしまいます。この現象は、従来の射出成形などで成形品内部に気泡(ボイド)が残ると強度低下や不良の原因になることと類似しています。

したがって、安定して高品質な3Dプリント造形を行うには、造形材料となる樹脂やペーストを十分に撹拌(混合)し、内部の空気を抜いておく(脱泡しておく)ことが不可欠になります。

近年では、造形材料そのものをエンジニアリングすることで3Dプリント部品の高機能化を図る動きも活発です。例えばフォトポリマー樹脂(光硬化樹脂)にセラミック粉末や金属粉末を高充填して機械的・熱的特性を向上させたり、複数の樹脂をブレンドして特定の色や柔軟性などを持たせたり、あるいは金属・セラミック粒子のスラリー(懸濁液)を材料に用いる3Dプリントプロセスなどが注目されています。

これら先進的な材料を用いるアディティブマニュファクチャリングでは、材料中の粒子や成分がムラなく均一に分散していること、そして余分な気泡を含んでいないことが一段と重要になります。Direct Ink Writing(インクを押し出して積層する方式)による多材料・高機能3Dプリント材料の開発に取り組んでいるところもあり、複数の材料や無機フィラー(充填材)を混合して単一の造形物内で複数の性質を実現したり、磁性粉末の配向を磁場で制御して造形物に刺激応答性(形状変化機能)を持たせるといったことがされています。

材料面からアディティブマニュファクチャリングの可能性を広げるためには、「造形材料を均一に混合することが安定した造形プロセスの遂行に不可欠」であり、そのために撹拌脱泡機(混練りと脱泡を同時に行える装置)を用いてフィラーと樹脂をムラなく混ぜ合わせていると報告しています。このように、アディティブマニュファクチャリング技術の発展において撹拌脱泡による材料の品質管理が重要なテーマとなりつつあります。

撹拌脱泡機について

撹拌脱泡機は、その名のとおり材料の撹拌(混合)と脱泡(脱気)を同時に行える装置です。一般的にカップや容器に材料を入れ、高速で容器ごと自転と公転させることで内部に強力な対流を発生させます。これにより材料を効率よくかき混ぜながら、混入した気泡を抜くことができます。

自転と公転の二重の回転運動によって容器内に強力な遠心力場が生まれ、材料が容器内壁に沿って循環するため、プロペラなどの撹拌子を使わなくても均一な混合が可能です。同時に遠心力で材料中の気泡を中心部へ追い出し、対流で表面に浮上させ、さらに遠心力で気泡を圧縮・破裂させて除去します。この一連の動作を減圧下(真空状態)で行える装置もあり、その場合は肉眼では確認しづらい微小な気泡まで徹底的に脱泡することができます。

撹拌脱泡機はしばしば「回転・公転式ミキサー」や「プラネタリーミキサー」などとも呼ばれ、樹脂材料や化学材料の研究開発から食品・医薬品製造に至るまで幅広い分野で利用されています。AM分野においては、この撹拌脱泡機が造形用材料の事前処理において大きな役割を果たします。

アディティブマニュファクチャリングと撹拌脱泡機の関係

アディティブマニュファクチャリングで高品質な出力を得るためには、先述のとおり材料の均一性と気泡除去が重要です。ここでは、撹拌脱泡機が特に有効に機能する具体的な用途をいくつか挙げて説明します。

高充填フォトポリマー樹脂の調製

光造形(SLA)などで用いる感光性樹脂に、機能性向上のためセラミックや金属の微細粉末を高い濃度で分散させるケースです。例えばアクリル系の光硬化樹脂にナノサイズのアルミナ粉末を数十%も混ぜ込むと、ペースト状の高粘度材料になります。このような粒子充填樹脂を調製するには、撹拌と同時に脱泡できる装置が不可欠です。手作業で粉体を樹脂に混ぜ込むと空気も一緒に練り込まれてしまうため、機械的に真空下または遠心力で脱泡しつつ混合する必要があります。

自転・公転式の撹拌脱泡機により大気下で300秒間の処理を繰り返すと、ナノ粒子を均一に分散させつつ混入した空気を除去できるとされています。十分に脱泡・分散された樹脂材料を用いることで、造形中のレジン内の気泡起因の欠陥を防ぎ、焼結工程を経て緻密なセラミック・金属部品を得る土台が築けます。

マルチマテリアル樹脂システムの調製

一つの造形物内に複数の材料特性を持たせる「マルチマテリアル」造形では、あらかじめ目的の特性に合わせて樹脂をブレンド(混調)する必要があります。例えば、ある程度の柔軟性と強度を両立するために硬い樹脂と柔らかい樹脂を一定比率で混ぜたり、色調や導電性を付与するために顔料や導電フィラーを樹脂に加えたりします。これらの材料は各成分がムラなく混ざっていなければ、造形時に所望の特性が均一に発現せず、部分ごとに強度や色味が異なる不良につながりかねません。撹拌脱泡機を使えば異なる樹脂同士や添加物を短時間で均一混合でき、同時に混合時に入り込む気泡も除去できます。

また、複数の材料を用いる造形では材料ごとの粘度差にも留意が必要ですが、撹拌脱泡機なら回転数や時間を調整して高粘度成分も均一にできるため、安定した多材料造形プロセスを支えます。事前混練は、トラブルなく造形を行う鍵ともいえるのです。

金属・セラミック系スラリー材料の調製

金属粉末やセラミック粉末を液体バインダー(結合剤)と混ぜたペースト状・スラリー状の材料は、様々なアディティブマニュファクチャリング・プロセスで利用されています。例えば、バインダージェッティング方式では粉末床に液体バインダーを噴射しますが、そのバインダー自体に固形分を含むスラリーを用いる研究もあります。またロボキャスティング(押出し積層)では粘土やセラミックの泥漿(でいしょう:どろ状の懸濁液)を細いノズルから絞り出して積層造形します。こうした粒子スラリー系材料でも、撹拌脱泡機が威力を発揮します。微粒子が沈降せず安定に懸濁した均一ペーストを用いなければ、押出し時にノズル詰まりや吐出ムラが発生したり、造形体内部に空隙が生じてしまいます。

撹拌脱泡機でスラリーを均一化し気泡を最小化することで、安定した押出し・塗布が可能になり、高品質な造形体を得られます。実際にセラミックDLPや押出しアディティブマニュファクチャリングの分野では、スラリーの脱泡処理(真空脱泡や遠心脱泡)を行って気泡混入を防ぐのが一般的です。例えばある研究では、造形に用いるジルコニアの光硬化性スラリーを再利用する際にも撹拌・脱泡を施し、気泡のない安定した材料特性を維持していると報告されています。。このように撹拌脱泡機は金属やセラミックを扱うアディティブマニュファクチャリング材料の調製にも欠かせない存在です。

撹拌脱泡機がもたらす進歩

品質保証と規格適合の観点

アディティブマニュファクチャリングが量産フェーズに進むと、材料の前処理工程――撹拌脱泡操作――の再現性とトレーサビリティが品質監査の焦点となります。国際的な品質マネジメント指針では、造形前の材料調製も製造プロセスの一部と見なし、バッチ番号・処理時間・回転数・真空度・処理温度などの条件をすべて記録し、後工程の造形データや検査結果と紐づけて保管することが推奨されています。

最近の撹拌脱泡機は、粘度センサや泡径センサ、加速度センサを内蔵し、撹拌中に取得したデータをクラウドに自動アップロードできるものが増えています。これにより、粘度が目標に達しない場合には公転数を自動的に調整したり、微細気泡の残存率が基準を超えた場合には真空保持時間を延長したりするリアルタイムフィードバック制御が可能になります。こうした仕組みはヒューマンエラーの低減に寄与するだけでなく、一貫した材料品質を担保して造形品のばらつきを減らします。

さらに、多くの企業が製造実行システム(MES)や品質管理システム(QMS)と撹拌脱泡データを連携させ、レシピの自動配信や不良解析を行う体制を整えつつあります。これにより、航空宇宙や医療機器のような高信頼性分野でも、アディティブマニュファクチャリング部品の前処理工程を含むプロセスバリデーションをクリアしやすくなります。このように、撹拌脱泡機は単なるミキサーではなく、アディティブマニュファクチャリング全体の品質保証を支えるデジタル化プラットフォームとして進化しているのです。

サステナビリティへの貢献

高価な機能性樹脂や貴金属粉末を大量に扱うアディティブマニュファクチャリングでは、材料ロス削減がコスト面だけでなく環境負荷低減にも直結します。撹拌脱泡機は、造形後に残った未使用レジンやスラリーを「再生」する際にも重要な役割を果たします。具体的には、劣化によって粘度が上がったレジンにモノマーや安定剤を微量添加しながら均質化・脱泡を行うことで、物性を回復させる手法も存在します。

また、真空ポンプをインバータ制御してエネルギー消費を最適化したり、処理レシピと実際の投入量を自動照合して過剰混合を防止するなど、装置自体の省エネ・省資源化も進んでいます。さらに、ライフサイクルアセスメント(LCA)ツールと連携し、材料投入から造形完了までのCO₂排出量を可視化する取り組みも始まっており、撹拌脱泡工程を含む「前処理段階」での改善余地が注目されています。これらの取り組みは、企業の ESG 指標や顧客からの環境配慮要求に応えるうえでも大きな武器になります。

撹拌脱泡機でアディティブマニュファクチャリングは改善される

撹拌脱泡機を活用することで、アディティブマニュファクチャリング用材料の品質は向上します。均一な混合によって樹脂やペースト中の成分偏りがなくなり、造形物の物性が全体にわたって安定します。さらに気泡ゼロの材料は造形途中の不良発生率を低減し、完成部品の内部欠陥も抑制できます。結果として、アディティブマニュファクチャリング技術本来のメリットである複雑形状造形やマルチマテリアル造形のポテンシャルを十分に活かすことができます。

今後、アディティブマニュファクチャリングが産業応用でさらに普及し、より厳しい品質要求に応える必要が出てくる中で、撹拌脱泡機の果たす役割はますます大きくなるでしょう。例えば、航空宇宙や医療分野では3Dプリント部品の信頼性確保が極めて重要ですが、材料段階での均質化と脱泡処理がその信頼性の土台となります。また、新しい機能材料(導電性ナノインクや自己修復樹脂など)が登場するたびに、それらを安定して造形プロセスに適用するための前処理装置として撹拌脱泡機が求められるでしょう。今後、撹拌脱泡機がアディティブマニュファクチャリング用により特化した真価をする可能性もあります。技術の発展や改善にも注目です。

以上のように、撹拌脱泡機は一見地味ながらアディティブマニュファクチャリングの品質を陰で支える重要技術です。材料を「よく混ぜ、そして余分な空気を抜く」という基本を徹底できるかどうかが、求めるクオリティの3Dプリンティングを成功させる鍵となります。撹拌脱泡機を活用して、アディティブマニュファクチャリングを行うのであれば、それに適した機材を選ぶようにしましょう。

撹拌脱泡機メーカーの
おすすめ3選をチェック!

効率的な処理を追求できる
撹拌脱泡機メーカー厳選3社

自社製品や素材の特性に合わせて繊細な調整ができ、効率化につながるカスタマイズ性と、自社製品での処理精度をしっかり追求できるようレンタルとデモの両方ができることに注目し、処理目的ごとにメーカーを厳選しました。
量産‧⼯業利⽤
多量・大容量の
処理向き

三星工業

公式キャプチャ
引用元:三星工業株式会社公式HP(https://www.mitsuboshi-k.co.jp/high_rotor/)

独自の4カップ仕様により、最大80Lの大量処理が可能。

防爆仕様のため大量の材料を混ぜても安心

処理可能な容器の容量
300ml未満
1L未満
10L未満
20L未満
20L以上
【例えばこんな素材】

シリカ、高粘度樹脂、ワニス、セラミック増粘剤、オイル、UV硬化性樹脂など

公式HPで
詳しく確認

撹拌脱泡機の
特徴をチェック

電話で問い合わせる

量産‧⼯業利⽤
小~中容量の
処理向き

写真化学
(プロダクトカンパニー)

公式キャプチャ
引用元:写真化学(プロダクトカンパニー)公式HP(https://www.shashin-kagaku.co.jp/)

1カップ300mlから7000mlまでの間で、中容量のラインナップが最多

撹拌による温度上昇を抑制することができる

処理可能な容器の容量
300ml未満
1L未満
10L未満
20L未満
20L以上
【例えばこんな素材】

接着剤、フィラー、導電性ペースト顔料、酸化チタンなど

公式HPで
詳しく確認

撹拌脱泡機の
特徴をチェック

電話で問い合わせる

研究開発利用
小容量での
開発処理向き

シンキー

公式キャプチャ
引用元:シンキー公式HP(https://www.thinkymixer.com/ja-jp/)

研究用コンパクト機のなかでも、100mlの小型モデルあり。

新規材料でのレシピ提案のアフターサービスあり

処理可能な容器の容量
300ml未満
1L未満
10L未満
20L未満
20L以上
【例えばこんな素材】

シール材、グリス、ガラスペースト、シリコーン樹脂、PDMSなど

公式HPで
詳しく確認

撹拌脱泡機の
特徴をチェック

電話で問い合わせる

2021年11月2日時点で、Google検索で「撹拌脱泡機」と検索し表示されたメーカー公式サイト19社の中から、「カスタマイズ可能」「レンタル可能」「デモ利用可能」の記載があった3社を表示しています。それぞれのメーカーが製造している機械のラインナップの特徴を基に、利用シーンをお勧めしています。
【選出基準】
多量・大容量の処理向き…一度に合計40L以上の処理を行える機械を製造しているメーカーを選出。
小~中容量の処理向き…300mlから1Lの容量で処理可能な機械を多種製造しているメーカーを選出。
小容量での開発処理向き…100mlの容量で処理できる機械を多種製造しているメーカーを選出。