撹拌機のモーターといえば、安価で頑丈な「インダクションモーター」を「インバーター」で制御するのが一般的でした。しかし、より高機能・高付加価値な製品が求められる現代においては、より攪拌の精度を高める方法が必要とされています。その方法の一つがサーボモーターです。
この記事では、サーボモーターに焦点を当て、その仕組みから導入のメリットなどを解説していきます。サーボモーターが強みとしている点、撹拌機での活用についてもまとめました。
サーボモーターは、モーターに「エンコーダ」という位置や速度を検出するセンサーと、「ドライバ(アンプ)」という司令塔がセットになったシステム全体の名称です。モーター本体は、高い応答性と精密な制御ができるように設計されています。エンコーダは、モーターがどれだけ回転したか、今どの位置にあるか、どれくらいの速度で回っているかを常に監視し、その情報をドライバにフィードバックするセンサーです。
ドライバは、エンコーダから得た情報と指令された目標値(目標の回転数や位置)を比較します。ズレがあれば、瞬時に補正するようにモーターに的確な量の電気を流します。これがサーボ(Servo)、すなわち「追従する」という名前の由来です。この「目標値に正確に追従する」という能力こそが、サーボモーターの最大の特徴であり、撹拌の品質向上に役立つ力といえます。
サーボモーターが搭載された撹拌機は、どういったメリットがあるかを紹介します。
サーボモーターの最も大きなメリットは、回転の「速さ」「位置」「力強さ」を極めて高い精度で、かつ自在にコントロールできる点にあります。
従来のインバーター制御では、混ぜるものの粘度が変化すると、モーターにかかる負荷が変わり、設定した回転数がブレてしまうことがありました。しかし、サーボモーターはエンコーダで常に回転数を監視しているため、負荷が変動しても設定された回転数をピタリと維持し続けます。常に同じ条件で撹拌でき、製品の品質を安定させることができる強みです。
サーボモーターはプログラムによって回転動作を細かく設定できます。「〇秒間正転し、△秒間停止、□秒間逆転する」といった単純な往復運動はもちろん、「最初はゆっくり混ぜ始め、徐々に加速し、最後に高速で仕上げる」といった緩急をつけた撹拌や、特定の位置でピタッと停止させるといった「位置決め」も得意です。
攪拌パターンを自在にできるため、材料の特性に合わせた最適な「練り」や「混ぜ」のレシピを忠実に再現できるようになります。人間が手作業で行うような、繊細で複雑な撹拌を自動で実現していると言ってもよいでしょう。
サーボモーターは、回転数だけでなく「トルク(回転しようとする力)」も精密に制御・監視できます。この機能が、撹拌の「見える化」を実現します。
撹拌中にモーターが出力しているトルク値を監視することで、リアルタイムで内容物の粘度がどう変化しているかを把握できます。例えば、化学反応によって液体が固まり始めた、粉末が完全に溶解してサラサラになった、といった変化をトルク値の変動から読み取ることが可能です。
トルク監視は、撹拌の「やめどき」を判断するのに非常に有効です。従来は作業者の勘や経験、あるいはタイマーに頼っていた「終点」を、「トルク値が目標の○○になったら終了」というように数値で明確に定義できます。誰が作業しても常に同じ仕上がりの製品を作ることが可能になり、品質のばらつきを劇的に減らすことができます。
サーボモーターは、インダクションモーターと比較してエネルギー効率が高いという特長も持っています。インダクションモーターは、比較的低い負荷で運転している時でも、相応の電力を消費し続けます。サーボモーターは「必要な時に、必要な分だけ」の電力を供給する制御方式のため、無駄なエネルギー消費を少なくできるのです。
撹拌の工程で停止と運転を繰り返すような使い方や、低速でゆっくり混ぜる時間が長い場合などでは、その差は顕著に現れます。長期的に見れば、電気代の削減に大きく貢献し、環境負荷の低減にもつながります。
サーボモーターは、同じ出力(パワー)のインダクションモーターと比較して、小型で軽量な傾向があります。特に低速域でも高いトルクを発生させることができるため、これまで大きな減速機が必要だったような用途でも、減速機を小型化したり、あるいは不要にしたりできる場合があります。
サーボモーターが採用された撹拌機は、全体の設計がコンパクトになり、設置スペースの削減や、装置の取り回しの向上に繋がります。研究室の限られたスペースや、複雑な製造ラインの中に撹拌機を組み込む際に、このコンパクトさは大きなメリットとなります。
インダクションモーターは、構造上、特有の電磁音や冷却ファンの音が発生します。一方、サーボモーターはスムーズな回転制御により、運転音が非常に静かです。人が近くで作業する研究室や、静かな環境が求められる場所での使用において、この静音性は作業者のストレスを軽減し、快適な作業環境の実現に貢献します。
こうした数々のメリットを持つサーボモーター搭載撹拌機は、すでに様々な分野でその能力を発揮し、ものづくりの高度化に貢献しています。
精密な反応制御が求められる医薬品の合成や、結晶の大きさや形を均一に揃える「晶析(しょうせき)」プロセスで活躍しています。トルク管理によって反応の進捗状況を監視したり、プログラムされた精密な回転パターンで理想的な結晶を作り出したりします。高価な原料を無駄なく、かつ高品質で製品化するために不可欠な装置です。
メレンゲや生クリームの泡立ては、その日の気温や湿度、材料の状態によって泡立ち方が変わる繊細な作業です。サーボモーターのトルク管理を使えば、泡の状態(粘度)を検知しながら最適な回転数で撹拌し、理想的な状態に仕上げることが可能です。また、パンやうどんの生地をこねる際も、グルテンの形成による生地の弾力の変化をトルクで捉え、求める強さでのこね具合を再現できます。
ファンデーションや乳液などの化粧品は、水と油のように混ざり合わない成分を均一に混ぜ合わせる「乳化」という工程が品質を大きく左右します。サーボモーターによる精密な回転制御とトルク管理は、乳化粒子の大きさを微細で均一に保ち、滑らかな使用感や安定性の高い製品づくりに貢献します。
スマートフォンや電気自動車に使われる高機能なペーストや接着剤は、導電性の微粒子などを樹脂の中に極めて均一に分散させる必要があります。少しでもムラがあれば、製品の性能に直結するポイントです。サーボモーターは、その高精度な撹拌能力で、ミクロン単位での均一性を実現し、最先端の電子デバイスの製造を支えています。
サーボモーターにも不得意なことや導入にあたって最大の課題は、「コスト」です。エンコーダやドライバといった部品が必要になるため、システム全体としてインダクションモーターとインバーターの組み合わせに比べて高価になります。そのため、単純に「ただ混ざれば良い」という用途では過剰なスペックとなり、コストに見合わないケースもありえるのです。
また、高機能であるがゆえに、その性能を最大限に引き出すためには、技術が必要です。回転パターンをプログラムしたり、各種パラメータを設定したりといった、ある程度の専門的な知識や技術を備えておく必要があるでしょう。近年ではタッチパネルで直感的に操作できる撹拌機も増えており、このハードルは下がりつつあります。
撹拌機におけるサーボモーターの導入は、単なる動力の置き換えではありません。それは、これまで人間の「勘」や「経験」、またはある程度のざっくりとした数値に頼らざるを得なかった撹拌という工程を、より厳密に管理・制御し、理想的な品質を再現できるようにします。
高精度な回転制御は、製品の品質を飛躍的に向上させながらも安定させます。トルク制御による「見える化」は、新たな知見をもたらし、開発のスピードアップや品質管理の高度化を実現します。そして、省エネ性能やコンパクトさは、持続可能な社会への貢献と、より柔軟な生産体制の構築を可能にします。

独自の4カップ仕様により、最大80Lの大量処理が可能。
防爆仕様のため大量の材料を混ぜても安心
シリカ、高粘度樹脂、ワニス、セラミック増粘剤、オイル、UV硬化性樹脂など

1カップ300mlから7000mlまでの間で、中容量のラインナップが最多。
撹拌による温度上昇を抑制することができる
接着剤、フィラー、導電性ペースト顔料、酸化チタンなど

研究用コンパクト機のなかでも、100mlの小型モデルあり。
新規材料でのレシピ提案のアフターサービスあり
シール材、グリス、ガラスペースト、シリコーン樹脂、PDMSなど
2021年11月2日時点で、Google検索で「撹拌脱泡機」と検索し表示されたメーカー公式サイト19社の中から、「カスタマイズ可能」「レンタル可能」「デモ利用可能」の記載があった3社を表示しています。それぞれのメーカーが製造している機械のラインナップの特徴を基に、利用シーンをお勧めしています。
【選出基準】
多量・大容量の処理向き…一度に合計40L以上の処理を行える機械を製造しているメーカーを選出。
小~中容量の処理向き…300mlから1Lの容量で処理可能な機械を多種製造しているメーカーを選出。
小容量での開発処理向き…100mlの容量で処理できる機械を多種製造しているメーカーを選出。