ウェアラブルが一般化し、技術は進化を続けています。その影響もあり、衣類そのものが機能を持つスマートテキスタイル市場が成長しています。しかし、高機能化に伴い、製造プロセスでの技術的課題も発生している状態です。スマートテキスタイルに活用される、センサーや回路の基盤となる導電性インクや電子部品を保護する封止材といった素材の製造が上手く行くかが、できあがる製品の性能と信頼性に直接的な影響を与えます。
この記事では、スマートテキスタイルの製造現場が直面する「材料の均質化」と「気泡の除去」という課題に対し、撹拌脱泡機(遊星式撹拌脱泡機)が役立っているかをまとめました。活用例から導入のポイントなどを解説します。まだ発展途上の段階にあるスマートテキスタイルの素材に対し、どのように役立っているかを確認してみましょう。
スマートテキスタイル、あるいはe-テキスタイルは、着用者の生体情報を計測したり、外部環境と相互作用したりする次世代の繊維製品です。ヘルスケアからスポーツ、軍事・防衛分野に至るまで、その応用範囲が拡大しています。素材として支えているのは、銀ナノ粒子やカーボンナノチューブ(CNT)を含む導電性インク、柔軟性と耐久性を兼ね備えた高機能ポリマーなどです。
しかし、高性能な材料を単に混ぜ合わせるだけでは、スマートテキスタイルの真価を引き出すことはできません。製造プロセス(材料を混ぜ合わせる調製段階)には、品質に対しての課題が潜んでいます。導電性インクに含まれるフィラー粒子が均一に分散せず、塊(凝集)になってしまえば、回路は正しく機能しません。また、材料を保護するコーティング剤や封止材に微小な気泡が一つでも混入すれば、そこから亀裂や腐食が発生し、デバイスの寿命を著しく縮めてしまいますためです。材料の均質性と純度をいかに高めるかという点が、スマートテキスタイル量産化におけるボトルネックとなっています。
スマートテキスタイルが要求する品質を実現するため、活用されているのが遊星式撹拌脱泡機です。遊星式撹拌脱泡機は、スマートテキスタイル製造に欠かせないツールとして、さまざまな素材で使われています。
遊星式撹拌脱泡機は、天体の動きに似た独自のメカニズムで材料を処理します。材料を入れた容器が、装置の中心軸の周りを高速で回転(公転)すると同時に、容器自身も自転軸を中心に回転(自転)します。この2つの遠心力の組み合わせが、スマートテキスタイルが求める材料の調製を可能にする仕組みです。
公転によって生じる遠心力は、材料を容器の壁へと押し付け、材料内部の気泡を強制的に液面に浮上させ、破泡させます。一方、容器の自転は材料内部に複雑なせん断力と対流を生み出し、高粘度の材料であっても隅々まで均一に混合・分散させます。
さらに、多くの高性能モデルには真空減圧機能が搭載されているのも特徴です。チャンバー内を真空状態にすることで、材料内部の気泡は膨張し、より効率的に除去されます。目に見える気泡だけでなく、材料に溶け込んでいるガス(溶存ガス)までも取り除くことが可能です。この仕組みによって、スマートテキスタイルが求める品質の純度を持った材料が完成します。
遊星式撹拌脱泡機の特長は、プロペラや撹拌翼を一切用いない非接触での処理にあります。プロペラを用いる機械式ミキサーは、材料にダメージを与えたり、翼の摩耗による不純物(コンタミネーション)が混入したりするリスクが常にありました。しかし、遊星式は容器ごと回転させるため、CNTのような繊細なナノ材料の構造を破壊することなく、均一に分散させることができます。
また、処理条件をデジタルで精密に制御できるため、作業者のスキルに依存することなく、品質の再現が可能です。これは、研究開発から量産へのスムーズな移行と、安定した品質管理体制の構築に不可欠です。さらに、材料をシリンジなどの専用容器に入れたまま処理できるため、材料の移し替えによるロスがなく、洗浄も容器を交換するだけで済みます。この効率性は、高価な材料を扱うスマートテキスタイルの製造や、多品種少量生産において大きなメリットとなります。
スマートテキスタイルの回路を形成する導電性インクは、性能に関わる重要な要素です。インク内の導電性フィラーの品質が悪いと、電気抵抗のばらつきや回路の断線といった欠陥に直結します。遊星式撹拌脱泡機が生み出す強力なせん断力は、素材を効率的に解きほぐし、フィラーをナノレベルで均一に分散させます。
フィラーが効率的に分散されることで、導電経路が安定し、信頼性の高い電気特性を実現できる素材になり、より少ないフィラー量で目標の導電性を達成できる点も強みです。高価な銀などの材料コスト削減に貢献します。開発や生産で繰り返し積み重なっていくと、ありがたみを感じる点といえます。
防水性や防汚性といった機能は、特殊なポリマーを布地にコーティングして付与します。コーティング剤の混合が不均一だと、塗布ムラや白濁、基材との密着不良を引き起こし、洗濯などによって剥がれる要因となるのです。遊星式撹拌脱泡機は、高粘度のポリマー溶液であってもダマやムラなく短時間で均質化します。同時に、混合時に巻き込まれる気泡も除去するため、均一で整ったコーティング層を形成でき、設計通りの機能性と耐久性を安定して発揮させることが可能になります。
内蔵された電子部品を水分や物理的ストレスから守る封止工程は、デバイスの長期信頼性を確保するため重要です。伸縮性が求められるウェアラブルデバイスでは、封止材内部に残留する微小な「ボイド(気泡)」が致命傷となりかねません。ボイドは応力集中の起点となり、繰り返しの伸縮によって亀裂を成長させ、デバイスにダメージを追わせてしまうためです。
真空機能付きの遊星式撹拌脱泡機は、気泡を減らす解決策を提供します。完成した封止材の品質は、走査型音響顕微鏡(SAM)のような非破壊検査で評価できますが、高品質な脱泡プロセスを経た封止材は、内部にボイドがほとんど確認されない状態となります。初期品質の差は、製品寿命に決定的な影響を与えます。ボイドフリーの封止材を用いたデバイスは初期故障が少なく、長期間にわたって安定します。撹拌脱泡機への投資は、デバイスの信頼性を定量的に高め、市場におけるブランドの信用を築くための基盤となるのです。
歩留まりの向上による直接的なコスト削減は、導入後に感じやすい効果のひとつです。手作業や旧式のミキサーに依存したプロセスでは、作業者のスキルやその日のコンディションによって品質がばらつき、一定数の不良品発生は避けられません。デジタル制御された撹拌脱泡機は、人的要因を排除し、より均一な品質の材料を供給できるようになり、不良品の発生を根本から抑制します。また、材料ロスの削減も強みです。ブレードレス設計は撹拌翼への材料付着を防ぎ、容器間の移し替えも不要なため、特に高価な導電性ペーストなどでは無視できない材料費の節約につながります。
これらの効果は、手直しや製品廃棄にかかるコスト、そしてそれらに費やされる人件費の削減に直結し、投資額を短期間で回収することを可能にします。
さらに重要なのは、目に見えない戦略的価値です。医療用デバイスや自動車、航空宇宙分野にスマートテキスタイルが応用される場合、製品の不具合は人命に関わる重大な事態を引き起こしかねません。高い信頼性が必要となる市場において、品質のばらつきや市場での不具合発生は、リコール費用という直接的な損失だけでなく、長年かけて築き上げたブランドイメージや企業の信用を失墜させるリスクです。再現性の高いプロセスによって担保される高い品質は、こうしたリスクを防ぐ「保険」であり、企業の持続的成長を支える資産となります。
遊星式撹拌脱泡機の重要性を理解した上で、次に課題となるのが「自社の目的に合った装置をいかに選ぶか」という点です。ここでは、導入を成功させるための選定ポイントを解説します。
まず考慮すべきは、処理容量です。研究開発段階であれば数グラムから数十グラムを処理できる小型機で十分ですが、量産を見据えるなら数キログラム単位の処理が可能な大型機が必要になります。次に重要なのが、装置の性能を決定づけるスペックです。高粘度の材料を扱ったり、サブミクロンレベルの微細な気泡まで除去したい場合には、より強力な遠心力(Gフォース)を持つモデルが有利です。封止材のように最高の信頼性が求められる用途では、高真空に到達できる真空機能が不可欠と言えるでしょう。また、熱に弱い材料を扱う場合は、処理中の温度上昇を抑えるための冷却機能も重要な選定基準となります。
スペックの比較検討と並行して、必ず実施すべきなのが、実際の材料を用いたデモンストレーション・テストです。材料の粘度やフィラーの種類、配合比によって、最適な撹拌・脱泡の条件(回転数、時間、真空度など)は大きく異なります。ほとんどのメーカーは、ユーザーが材料を持ち込んでテストできるラボ施設を用意しています。導入前に複数のメーカーでテストを行い、どの装置が最も効率的に、そして理想的な品質で材料を仕上げられるかを見極めることが、投資の失敗を避けるための最も確実な方法です。
遊星式撹拌脱泡機の導入は、単なるオペレーションの改善に留まらず、品質管理の高度化やサステナビリティへの貢献といった、より戦略的な意味を持ちます。
回転数や真空度を処理中に段階的に変化させる「ステップ運転」が可能な機種は、材料特性に合わせた最適なプロセスをプログラムできます。このプロセスのデジタル化と再現性の高さは、研究開発から量産化へ進めるための課題に対しても効果です。ラボの小型機で確立した最適なプロセスパラメータを参考に、量産用の大型機に移植できるため、スケールアップに伴う品質のばらつきや手戻りのリスクを低減し、開発期間の短縮とコスト削減に貢献します。
製造プロセスにおける歩留まりの向上と材料ロスの削減は、銀のような希少資源や石油由来ポリマーといった有限な資源の消費を抑制します。これは、サステナビリティの観点から見て重要な取り組みです。また、水ベースのインクや植物由来のポリマーといった新素材でも、遊星式撹拌脱泡機の高い材料対応性は対応できます。こうしたサステナブルな材料の導入を技術的に後押しします。
将来的には、撹拌脱泡機のプロセスデータと、完成した材料の物性データをAI(人工知能)に学習させ、材料配合やプロセス条件を予測・提案させることが期待されています。これまで膨大な試行錯誤を要していた新材料開発の期間が大幅に短縮される可能性があります。製造技術とAIの融合は、スマートテキスタイルの革新をさらに加速させるでしょう。
スマートテキスタイルの革新は、新しい材料の発見だけでは成し遂げられません。その材料が持つポテンシャルを引き出し、信頼性の高い製品として世に送り出すための製造技術が不可欠です。遊星式撹拌脱泡機は、材料調製の根本課題を解決し、品質、信頼性、生産性を飛躍的に向上させる技術です。

独自の4カップ仕様により、最大80Lの大量処理が可能。
防爆仕様のため大量の材料を混ぜても安心
シリカ、高粘度樹脂、ワニス、セラミック増粘剤、オイル、UV硬化性樹脂など

1カップ300mlから7000mlまでの間で、中容量のラインナップが最多。
撹拌による温度上昇を抑制することができる
接着剤、フィラー、導電性ペースト顔料、酸化チタンなど

研究用コンパクト機のなかでも、100mlの小型モデルあり。
新規材料でのレシピ提案のアフターサービスあり
シール材、グリス、ガラスペースト、シリコーン樹脂、PDMSなど
2021年11月2日時点で、Google検索で「撹拌脱泡機」と検索し表示されたメーカー公式サイト19社の中から、「カスタマイズ可能」「レンタル可能」「デモ利用可能」の記載があった3社を表示しています。それぞれのメーカーが製造している機械のラインナップの特徴を基に、利用シーンをお勧めしています。
【選出基準】
多量・大容量の処理向き…一度に合計40L以上の処理を行える機械を製造しているメーカーを選出。
小~中容量の処理向き…300mlから1Lの容量で処理可能な機械を多種製造しているメーカーを選出。
小容量での開発処理向き…100mlの容量で処理できる機械を多種製造しているメーカーを選出。